病的屁臭
May/11/2014

 屁が臭いのは病気?――簡単に言うと、病気である。なんとなく腹部に膨満感があり、何発屁をこいても明らかに解消されない上、尋常でない臭い、それは病気である。勿論僕は医者ではないし、はっきりしたことはいえないが、病気である。医者の診断も必要だが、多くは病気である。病気でない場合もあるが、そうでない場合は病気である。もしも微熱が続いていたり、明らかに体調が優れなかったりする場合は、病気である。同時に痔が出ていれば、病気である。便器に血が滴るようであれば、病気である。医者に掛かると原因不明と言われるが、病気である。場合によってはX線を浴びせられた上気管支炎だと言われて強い抗生物質で死期を早められることもあるが、やはり病気である。3日間薬を飲めば必ず熱が下がるはずなのに全く下がらなければ、病気である。気持ちの問題かと思って行った旅行先、体調が全く良くならず食事にも手を付けられない、そんなときは病気である。「そうでないことを確認するため」という名目で掛かった拠点病院で1週間の検査入院を命じられれば、それは病気である。病院に行った日に尻へおっさんの指が突っ込まれた上内視鏡を突っ込まれ、さらに内容物が邪魔でよく見えないなどと言われれば、ほぼ確実に病気である。2Lの下剤を飲まされ肛門が尿道になったような気分を味わえば、それは病気である。バリウムを飲まされた上鼻から内視鏡を入れられ、痛みは少ないと聞いていたのに結構痛かったりすることがあれば、もう疑いなく病気である。何故か一回多く肛門から内視鏡を入れられれば、きっと病気である。検査入院だから終わったら帰れると思いきや、普通に1ヶ月入院することになれば、病気である。しかも治らない病気であると告げられる、病気である。

 病名はクローン病、絶望である。

 おまけ:屁の臭い病気早見表

長短爪絶
May/06/2014

 爪を切るのが、大嫌いだ。知り合いに「爪が長い」と言われて指を見ると、まだまだ短い。なのに周囲は、口を揃えて爪を切れという。爪が長い人間は童貞という説まである。確かに僕は童貞かもしれないが、かもしれないというか童貞だが、僕は未だに、なぜ爪を切らなくてはいけないのか考えている。

 そもそも爪を切ると、しばらくは尋常でない気持ち悪さに震えることになる。身体のどこかを掻きむしろうものなら、表面が赤く荒れ、痛痒くなってしまう。肌の物理防御力が3程度しかない人間にとって、これは死に等しい。しかし、多くの場合これは理解してもらえない。感覚の問題だから同意を得るのが難しいというのもあるのだが、ならば何故爪が長いことに対する生理的嫌悪感の共有を強要(うまい)されるのかが全く分からない。

 僕も爪が長いのが好きなわけではない。だが、爪を切ったところで、数週間後にはまた同じ長さに戻ってしまうのだし、深爪のデメリットだってある。爪を伸ばしたままにしていれば、雑菌が溜まったり爪が割れたりするリスクもあるわけだが、はっきり言って一定以上になってしまえばそれからはほとんど伸びないし、そもそも爪が割れるほどロックに生きている人間は少ないのだから、瑣末な問題である。しかも、多くの場合爪の長さを気にする人間は身だしなみとしての爪の長さを重視しており、安全について言及されたことは滅多にない。言えば、人の目を気にしているだけであり、爪を切ることの意義を理解している人間はほとんどいない。すなわち、この問題の根幹にあるのは、意義を理解せずに杓子定規な解釈を繰り返す日本社会の構造そのものなのだ。

 思考が三段ジャンプを繰り返し日本の未来について憂い始めた辺りでどうでもよくなり、たまには、と新聞を開く。面白い記事があったので母にそれを指差す。その瞬間。「あんた爪長すぎ。」気づかれた。一瞬。その一瞬で、指先の異常に言及する。普段ドラマで肝心のシーンを見逃すのと同一人物とは思えない、鋭い洞察力。どうにか言いくるめようとしたこともあったが、全くの無駄だった。いわゆる議論に持ち込んでみたこともある、あることにはあるが、結局最後はこちらが諦める結果になるのだから、最初から無駄骨を折らないほうが良い。もうこれ以上粘ることはできない。泣く泣くヤスリと爪切りを取り、苦しむための戦いに身を投じるのだ。